2015年4月28日火曜日

植物の耐寒性のはなし


 ホームページ「週末ガーデニング」より転載:


Last updated on Feb. 14, 2001 /
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耐寒性のはなし


- 耐凍性を中心として 



1. 耐寒性とは


 植物は気温に応じて体温が変動する変温生物であり、生存できる限界温度がいうのがほぼ決まっている。 その中で、低い温度に対する抵抗性を、耐寒性(cold Resistance)とよんでいるが、温度だけではなく乾燥に対する抵抗性も非常に重要な要素であり、両者は密接な関係にあることが知られている。 下の表は、「低温ストレスに対する植物の対応の仕方」を示したものである。
一般に、0℃までの低い温度域を「冷温」、0~-70℃までを「低温」、それ以下から絶対零度近くまでを「極低温」とよぶ。 熱帯性の植物では、10~15℃の温度範囲でも冷温傷害を受けるものも知られているが、このページでは、凍結に対する抵抗性を中心とし、氷点下に至らない耐冷性については扱わないことにする。
      

jpg耐寒性 2. 植物が凍結するとは


2.1 過冷却


 少量の液体をその氷点以下の温度まで冷却しても、すぐには凍結は起こらずに、しばらく準安定の過冷却(supercooling)状態にとどまる(蛇足だが、多くの昆虫はこの過冷却状態で越冬しているらしい)。 水溶液は純度が高いほど、小さい液滴であるほど、過冷却の状態になりやすい。 生物が過冷却状態を保てるのは、理論的には-40℃前後ということになっているらしいが、通常は、零下数度程度で凍ることが多いようだ。

2.2 植物の凍結様式

 霜が降りると、植物は凍って濃緑色に変色してしまい膨圧を失ってしおれるが、凍った時間が短ければ、温度の上昇とともに立ち直り正常な緑色に戻ることがある。 また常緑樹の葉が凍り濃緑色を呈するのは、良く見られる現象である。 例えば、札幌の1,2月の気温では、直径15cmほどの木は中心部まで凍っているか、日光のあたり具合によっては凍結と融解を繰り返しているという。 では、植物が凍るということはどういうことなのだろうか?

    2.2.1 細胞外凍結

    植物組織をゆっくりと冷却すると、細胞内の温度や蒸気圧は細胞外のそれとほぼ平衡を保っている。 しかし、いったん細胞壁の外側にある水分が凍結を始め、細胞内が過冷却の状態になると、細胞外の氷表面の水分子の蒸気圧は、過冷却状態の細胞液より低くなってしまう。 この蒸気圧の差にそって、細胞内の水は細胞外へ強く脱水され収縮し、細胞外でさらに氷晶となり、細胞は氷で取り囲まれる。 これは細胞外凍結(extracellular freezing)と呼ばれる現象で、自然界における植物の一般的な凍結様式である。 この細胞外凍結による脱水の程度は、温度が低いほど強く脱水される。

    2.2.2 細胞内凍結

    細胞外凍結による脱水があまり進まないうちに細胞が急速に冷却されると、細胞の内が凍結してしまうことがある。 これを細胞内凍結(intracellular freezing)とよぶ。 細胞内凍結をおこした細胞は特殊な場合を除き生存できない。

    2.2.3 器官外凍結

    個々の細胞が細胞外凍結する能力が低く細胞内凍結を起こしやすくても、器官ぐるみで内部の水を器官外へ脱水しさらなる低温に耐える器官もある。 これを器官外凍結とよぶ。 細胞外凍結の場合と同じように、器官外凍結ではその器官が強度の凍結脱水に耐える能力をもっているならば、過冷却とちがい、凍結生存温度に下限はない。 この器官外凍結は、針葉樹の冬芽、ツツジ科、多くの被子植物の花芽の小花や種子でも認められる現象である。  種子を例にとってみると、種子は冷却されると外側からしだいに凍結していく。 さらに冷却を続けると胚や胚乳の水が、凍結した種皮と胚乳の間あるいは種皮に氷として析出し脱水され(凍結脱水)、胚および胚乳の細胞は凍結をまのがれる。 この際、冷却速度が遅ければ遅いほど強く脱水され、-50℃以下の凍結にも生存可能となる種子も少なくない。 一般に、小さく乾燥に耐えられる種子は器官外凍結で、大きく乾燥に耐えられない種子の多くは過冷却で越冬するものが多い。

3. 凍結による細胞の傷害

3.1 凍結の害

 凍結による傷害は、一般に、細胞膜の構造変化、細胞壁の傷害、細胞内pHの大幅な低下などに起因すると考えられているが、まだまだ研究段階のようだ。
細胞が傷害を受けるまで凍結脱水されると、細胞膜は、タンパク質粒子を欠いた脂質だけの二重層だけの膜が形成され、構造的な変化を受ける。 これにより細胞膜の半透性が失われ、細胞は膨圧の喪失とともに無機イオンやアミノ酸などの電解質を漏出して細胞は死んでしまう。  また、細胞外に形成された氷晶が細胞壁を局所的に変形させ、細胞膜に機械的ストレスを与えることによる傷害もあげられている。 一方で、耐凍性の低い植物は、凍結脱水ストレスを与えると細胞質pHが大幅に低下することが観察されており、そのことが細胞内の生理的機構にダメージを与えることも考えられている。

3.2 急速融解の害

 一般に凍結した組織を急速に融解すると組織は死んでしまう。ところが適温で徐々に融解すると細胞は機能を取り戻すことができる。 この急速融解に対する抵抗性は、植物の種類によって違いがあり、耐凍性の高いものほど抵抗性も高い。 これは冷却により脱水した細胞が、融解により急速に再吸水が進み細胞が破裂していまうことによると考えられている。 従って、抵抗性の違いは細胞膜の性質や構造の違いに原因があるらしい。

4. 耐凍性獲得には

 耐寒性のなかでも、生物が凍結に耐える性質のことを耐凍性(freezing tolerance)という。 一般には、生長休止期、あるいは生長が低下した時期にのみ発現し、低温にさらされることで耐凍性がしだいに高まることが知られている。 また植物の耐凍性は、遺伝的にある程度きまっているが、組織や器官によっても違いがある。

4.1 低温馴化

 温帯から亜寒帯に生育する多年生植物は夏から冬に向かって気温が低下する時期に、生長状態から休止状態へかわり、それに対応して組織内では、代謝系や細胞の構造や成分がおおきく変わり、糖類、核酸、タンパク質、膜脂質などが増大していく。 これらの一連の過程、
伸長停止 → (自発休眠)→ 耐凍性獲得 → (自発休眠解除)→ 低温下での耐凍性増大 を低温馴化(cold acclimation)とよぶ。 また、このような性質を利用して、植物を寒さにさらして耐凍性を高める処理をハードニング(hardening)という。

4.2 伸長休止の要因

 植物が耐凍性を高めるためには、生育が休止するか低下する必要がある。この休止を引き起こす要因には、日照時間、低温などがある。

4.2.1 限界日長

     中高緯度に生育する多くの木は、日照時間が短くなると生長を停止して休眠期に入る。この日照時間を限界日長とよぶ。 例えば、北海道の落葉樹の限界日長は約13時間で、8月中旬から9月上旬で早くも伸長を止める。 関東でも約10~11時間で10月初旬から下旬には限界日長がやってくるそうだ。 一般に、高緯度や山岳部、内陸部のように秋の冷え込みが早い地域の植物のほうが生育に必要な日照時間は長くなるらしい。 このように植物は、生育地の気象条件に対応した限界日長をもつことで、寒い冬がくる前に生長を停止して冬支度に入ると考えられている。

4.2.2 低温

     限界日長よりも長日であっても、夜間に低温にあうだけでも伸長を停止することが知られている。 後の耐凍性の高まりは遅れるが、ほぼ同程度の耐凍度に達することができる。ただし、その後の自発休眠に進むことはないらしい。 例えば、亜熱帯性のヤナギは自発休眠しないが、初霜などで茎の先端が枯死して伸長を止める。しかし枯死していない茎や枝は-50℃までも耐凍性を高めることが知られている。

4.3 気温と耐凍性増大

 上からも分かるように、耐凍性増大に自然休眠は必ずしも必要ではないが、休止状態が必要であると考えられている。 札幌で生育している多くの木は、通常11月初旬から中旬の氷点下の気温(凍結)によって冬芽の自発休眠が破れる。その後は生育環境が整うまで強制休眠の状態に留まる。 従って、自発休眠が破れた後も休止期がつづいており、この後の低温によって、耐凍性が急速に高まることが知られている。 この低温は、植物あるいは季節によって違いがあるが、最低気温が5℃以下、「5~-15℃」あたりのようだ。
暖地で越冬している植物は、耐凍性を高める冬の寒さが十分でないために、耐凍性が十分に発揮できない場合もある。 同一個体を寒冷地で低温処理すると高い耐凍性をしめすこともあるそうだ。  越冬中の植物の耐凍性は、気温の変化に伴って変動する。 一般に寒冷地では、3月上旬まで土壌が凍結していたり、積雪面下の幹が凍結していて、水分が吸収されないので温度変化の影響は少ない。 根からの水分上昇が始まると耐凍性は急速に低下し、温度上昇によってそれは一層大きくなる。
大株を購入する際の注意: 同一種でも産地により限界日長が異なっているので、暖地のものを寒冷地で越冬させようとすると、生長停止が遅いために耐凍性が高まらず、初冬の冷え込みで枯死することがある。 また、自然条件では積雪下で越冬する植物が、冬の乾燥害に対しては弱い場合もある。 雪害に対する抵抗性も産地間で異なることが知られているので注意しよう。

5. 耐凍性のメカニズム

 耐凍性が増大していく過程で、細胞内に糖質、アミノ酸などの中性溶質が多量に蓄積されて浸透濃度が増加することが知られている。 細胞内の浸透濃度が増加すると凍結脱水される温度が低下することが実験的には確かめられているが、実際には浸透濃度の高い細胞ほど耐凍性が高いとは限らない。 どうも、これらの溶質が細胞のどこに蓄積されるかが重要な意味をもつらしいが、まだ良く分かっていないらしい。 また、これらの中性溶質は、溶質の脱水濃縮による電解質の溶解度・解離定数・水素イオン活性に対する影響も軽減させ、細胞質pHの変化を抑制するうえでも重要な役割をもつと考えられている。
  また、親水性が高く熱に安定な特殊なタンパク質が多くの植物で誘導されることが分かってきた。 この多くは、種子登熟の後期にも蓄積されることから、乾燥ストレス耐性の獲得にも重要な役割を果たすと考えられている。  耐凍性の獲得と並行して、細胞膜のリン脂質の飽和脂肪酸分子が減少し不飽和脂肪酸分子が増加することが調べられている。 それにより、リン脂質極性基の水和特性が向上し、脂質分子の相分離が起こりにくくなるらしい。 その結果、凍結脱水による細胞膜のタンパク質粒子の欠損、膜融合、相転移などの有害な構造変化が防止されると考えられている。  ライムギの低温馴化過程で不凍活性と酵素活性を持つ不凍タンパク質が誘導されるのが明らかになった。 このタンパク質は、細胞間隙にあって氷晶成長を直接制御することで、細胞に加わる有害な機械的ストレスを軽減させると考えられている。 これらのタンパク質は、積雪下における雪腐れ病に対する耐性にも関与していると予想されている。  このように暖温帯から亜寒帯に生育する植物は、生活環のある時期を低温状態で過ごすので、それに先だって、必要な物質を蓄え、同時に寒さに耐える細胞に作り変わることが必要になる。 これらの一連の過程は当然ながら遺伝子の支配を受けており、現在、温度変化を感知する温度センサーの存在、その伝達経路、それを受けて発動する遺伝子などの研究が進められている。 また、これらの遺伝子の発動に植物ホルモンの一つアブシジン酸 (ABA) が作用する可能性も調べられている。
   以上、耐凍性を中心にまとめてみました。資料を読んで初めて知ったことや意外なこともありとても勉強にはなりましたが、難しく完全に理解できたとはいえません。 間違っているとすれば、それは私の理解が十分でないことによる勘違いのせいで、
参考資料とは関係がありません。どうか参考程度にお読み下さい。 この後、霜害、積雪に対する適応、生活型と耐凍性、などを順次加えていく予定です。  (2001.2.1)




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